ニコラス・バーターさんをお招きして


昨日、開催致しましたレクチャーは、講師にRADA(英国王立演劇アカデミー:Royal Academy of Dramatic Art)の元校長であるニコラス・バーターさんをお招きし、「イギリスの演劇教育」についてのお話を伺いました。通訳はRADAで学ばれた経験をおもちで、ニコラスさんとも親交の深い三輪えり花さん(ITI会員)にお願いしました。

ニコラスさんのお話は、自分は第2波の演出家に属しているというところから始まり、イギリス演劇の歴史も踏まえて進みました。

イギリスでは、1950年代に新しい演出家の時代がやってきた。それまでは、特別なスキルより経験が重視されており、大変良く出来る俳優かたくさんの経験を積んだ舞台監督が演出をしていた。それが1950年代、ピーター・ブルックやジョン・バートンのような、大学を卒業したばかりの若い演出家が活躍しはじめた。その若さのエネルギーが、その次の世代にあたる自分たちをも牽引してくれた。そして、この若さのもつエネルギーというのは、イギリスの演劇界において今も重要とされている。

RADAのオーディションのお話も大変に興味深いものでした。3000人の応募者の中から30人しか合格しないRADA のオーディション。半年の期間を設けて行われるオーディションは、もちろん厳しさもありますが、何より若い俳優を育てようとする誠意と愛情に満ちていると感じられました。オーディションの過程では、俳優の個性を見極め、他の演劇学校を薦めたり、落ちた受験者にはまだ若すぎるから来年も受けなさいとアドヴァイスしたりもするそうです。

書類審査は一切無しで、3000人の受験者一人一人に向き合い、300人に絞られた第2段階では、一人の受験者に4人の講師がチームを組んであたり、150人に絞られる第3段階では、16人ずつのチームを作り、ヴォイス、スピーチ、シーン作りと3人の先生がレッスンをしながら行う。最後、40人に絞られたメンバーは3チームに分かれて、1日中レッスンを受けながらの審査となる。

次に、入学してからの授業も大変にきめ細かな指導がなされていると感じました。

声のトレーニングではアレクサンダー・テクニークを採用し、3年間一人の先生と1対1のパーソナルトレーニングで学ぶ。2年目に台本にはいり、それまで学んだテクニックを生かしながら演技を学び、最後の1年間はプロフェッショナルの手に渡されて、演出家と1本の芝居をつくる。

特徴的なのは、最初のオーディションでも現役のプロフェッショナルが生徒を選び(RADAの先生方は入らないそうです)、最後に、また生徒たちはプロフェッショナルの手に委ねられるという点であり、プロの演出家、俳優は、今の演劇界をよく理解しており、今どんな俳優が必要なのかもよくわかっているから、この方法を選んでいるとのことでした。ここにも、過去にとらわれず、「私たちの世代は、私たちの観客のために」という考えが根付いており、それは同時に「過去も現代も演じる事が出来る俳優を育てる」というRADAの教育概念にも支えれているのだろうと思いました。

また、演劇学校を高等教育機関として国に認めさせたというお話も、刺激的でした。いくつかの学校が集まって連邦制の大学を創ったというのです。これにより、学生は奨学金を得る事も出来るようになり、またサーカス、バレエ、演劇といった他のジャンルに触れて行くことが何より学生に良い影響を与えたという事でした。

レクチャーの最後に設けられた質疑応答の中で、 オーディションで採用する基準は?との質問に答えられた「その人の背景です」「テクニックは教える事が出来るが、創造力、存在感は教えられない」という二つの言葉が印象に残りました。

RADAの俳優教育の素晴らしさに触れる事のできた貴重な時間となりました。