2024.3.31
NO.135

「ワールド・シアター・ラボ」 2023〜2024 
寄稿:村上理恵

多彩な3作品を取り上げ、リーディングに加え、新たに「翻訳者育成プログラム」を実施

ITI日本センターでは、海外現代戯曲を取り上げ、ワークショップやリーディング上演等を通して、〈戯曲翻訳〉に触れる機会を創出し、翻訳者育成に努めています。


「ワールド・シアター・ラボ」は、海外で創作された現代戯曲の翻訳とその上演を通して、次代を担う翻訳者の紹介・発掘、また、同時代の世界の現実をよりよく理解する視点に触れることを目的に、文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」として実施しています。例年3作品程度を取り上げ、ワークショップやリーディング上演等を通して、〈戯曲翻訳〉に触れる機会を創出してまいりました。

開始から4年目を迎えた「ワールド・シアター・ラボ」(2023-2024)は、イギリス・台湾・アメリカの3作品を取り上げ、「戯曲読解ワークショップ」「リーディング上演」「翻訳者育成プログラム」の3企画を展開しました。

『原宿ガールズ(Harajuku Girls)』(イギリス/作:フランシス・ターンリィ)は、日本のポップカルチャーの負の側面から、家族や伝統、自由、性の搾取を、日本とアイルランドにルーツを持つ作家が描いています。翻訳は、俳優を中心に、演出、企画などにも携わる万里紗さんが務めました。「戯曲読解ワークショップ(オンライン/2023.12.11-15)」では、ファシリテーターを西本由香さんが担当し、翻訳者、参加者の活発な意見交換がなされました。「リーディング上演」(上野ストアハウス/2024.2.22-25)では、演出に舘そらみさんを迎え、シリアスな題材でありながら、客席から笑いの溢れる作品となりました。

本事業で初めて取り上げたアジア圏の作品『家族の配列(家族排列)』(台湾/作:リー・ピンヤオ)。アジアのアーティスト達との共同作品を発信する山﨑理恵子さんが翻訳しました。本作は、4人の異母姉妹弟の会話から、それぞれのしきたり/家族/ジェンダー観が浮かび上がります。「戯曲読解ワークショップ(オンライン/2023.12.18-22)」では、ファシリテーテーをEMMA(旧・豊永純子)さんが担当、台湾の参加者からの情報共有もあり、オンライン上の全員が同じ熱量を持って参加するワークショップとなりました。「リーディング上演」(上野ストアハウス/2024.2.22-25)では、演出の水野玲子さんが、1場1場を丁寧に作り上げ、75分間の凝縮された作品となりました。

新企画として「翻訳者育成プログラム」を実施しました。翻訳者を公募で1名選出し、監修者とともに全編の翻訳と戯曲集掲載を目指します。対象作品は『囚われの本質(The Nature Of Captivity)』(アメリカ/作:マシュー・ポール・オルモス)。7月に公募を開始し、書類選考ののち、二次選考では一部翻訳を提出いただき、選考を行いました。選考の結果、映像翻訳者(英日)として活動されている渡邉奈津希さんが選ばれました。9月から11月にかけて、監修の谷岡健彦さんと2回のブラッシュアップと試読会を行い、12月に戯曲を版権元に提出、バックトランスレーションのやり取りを経て完成、戯曲集へ掲載しました。

今回参加した演出家・俳優等へのアンケートには、次も参加したいという意見が多く寄せられました。また、「戯曲翻訳は、やりたいと思ってもきっかけやチャンスが少ない世界」との声もありました。本事業が、参加した演劇関係者・観客含め、関わりがあった全ての方々の〈戯曲翻訳〉へのきっかけになっていると大変うれしいです。最後に、今年度も多くの方に支えられて無事に全ての企画を実施できましたことを、この場を借りて御礼申し上げます。

村上理恵(「ワールド・シアター・ラボ」制作)

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