2024.3.31
NO.135

『この子たちの夏 1945 ヒロシマ・ナガサキ』 
寄稿:シライケイタ

『この子たちの夏 1945 ヒロシマ・ナガサキ』最終公演 40年分の思いを乗せて

2023年夏、約40年に渡って上演されてきた『この子たちの夏』が区切りを迎えました。2021年から演出補として上演に関わったシライケイタ氏による最終公演レポートをお届けする。


2023年の『この子たちの夏』は例年と少し違う雰囲気で稽古が始まりました。1985年に初演されて以来約40年にわたって上演されてきた本作が、今回で一区切りになることが決まっていたからです。本当にこれが最後なの?本当に最後ならこれは大変なことだ!絶対に良い作品にしなければ!と、出演者もスタッフも緊張していたように思います。

地人会で木村光一さんが作った本作を、木村さんが引退された後に地人会新社が受け継ぎ、その後ITIとの共作に。2021年からは僕が演出補という立場で、作品に参加させていただきました。大変光栄な思いがするとともに、約40年の歴史がある作品をしっかりと受け継ぎ、お客様に手渡さなければと、大きな責任を感じながらの稽古場でもありました。それは出演の女優さんたちも同じで、40年分の魂のこもった台本と演出を、間も無く戦後80年になろうとしている我が国の客席にどのように届けることができるか、真剣に作品に向き合う稽古場でした。

80年前の悲劇に耳をすませ、目を凝らし、過去の体験を自分ごととして捉えようとした時、この作品の母親たちの声は我々の心臓を鷲掴みにし、言葉に尽くせぬ悲しみと苦しみと怒りに体が震えます。出演者とスタッフの全員が戦争を知らない世代に代替わりして久しいですが、80年前の苦しみは、この作品を通してこの身に襲いかかってきます。日本各地のツアーを終えたファイナルの地、三軒茶屋のシアタートラム千秋楽の客席も同様でした。80年前の悲劇を全身全霊で現代の世に伝えようとした7人の出演者の思いは、この作品の歴史である40年分の思いを乗せて客席を覆い尽くし、大きな感動と反戦への思いとして伝播していきました。

本当にこの作品をここで終わらせてしまって良いのだろうか。僕も含めてこの作品に関わった全ての人が抱いている問いかけです。新たな戦後を生み出さないために、どんな形であれ存続させるべきではないかと思います。その為に僕に何ができるか、考え続けたいと思っています。

シライケイタ(『この子たちの夏 1945 ヒロシマ・ナガサキ』演出補)

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