2024.3.31
NO.135

アートキャラバン「紛争地域から生まれた演劇15周年記念」
寄稿:林 英樹

シリア戯曲『母と娘の物語 ハイル・ターイハ』(作:アドナーン・アルアウダ 翻訳:中山豊子)を石川(金沢)、広島(福山)、群馬(前橋)で制作・上演

ITI日本センターは、「演劇を通して世界を見る」シリーズを令和5年度に初めて実施した。シリア戯曲『母と娘の物語 ハイル・ターイハ』は、石川(金沢)、広島(福山)、群馬(前橋)で、それぞれ異なる演出・座組によって実施された。公演の成り立ちと上演の反響等をプロデューサーの林英樹氏に寄稿していただいた。


ITI「演劇を通して世界を見る」シリーズは、文化庁による新型コロナウイルス感染症で委縮した文化への需要喚起と活性化、地域における文化芸術の振興を目的に、文化芸術統括団体等が各地域の文化芸術関係団体と連携しながら実施する多種多様な文化芸術事業を対象とするアートキャラバン(地域連携型)の一環として企図された「公文協アートキャラバン 劇場へ行こう3」参加事業である。

この主旨に沿って筆者は、これまで東京以外で実現できなかった「紛争地域から生まれた演劇」を地域の演劇団体、演劇人を核にITIと連携した共同制作というコンセプトを立て、実現可能な5地域を選定し、ウクライナ作品とシリア作品の2作品に絞り、「紛争地域から生まれた演劇15年記念」という副題のもと、企画立案・総合プロデュースを担当した。

2作品のうちのシリア作品『母と娘の物語 ハイル・ターイハ』は石川(金沢)、広島(福山)、群馬(前橋)で、それぞれ異なる演出・座組によって実施された。金沢は独自の表現様式を確立する劇団アンゲルスと同劇団を率いる演出家岡井直道氏が核となり、福山は東京から地元へ帰還した俳優の小林晃子氏が中心となって実行委員会が形成され、前橋は地元演劇人の要として活躍される演劇プロデュースとろんぷ・るいゆ とその代表中村ひろみ氏が中心となり、東京の俳優、芸術家、スタッフとの共同制作体制で臨むこととなった。

題材が各地域では馴染みの薄い「紛争」関連の作品であり、かつあまり触れる機会のないアラブ演劇ということもあって、集客など難航が予想されたが、各地域のメンバーが精力的に広報活動を行い、金沢では北國中日新聞、東京新聞、福山では中國新聞、朝日新聞、備後経済リポート、前橋では上毛新聞、東京新聞、朝日ぐんま等多数のメディアに取材記事が掲載され、公演のみでなくITIの存在や活動を広範に認知していただくこととなった。これは現地の制作スタッフの活躍とともに、本企画の広報戦略を練ってくださった広報PR専門家の石井理加氏の協力に負うところが大きかった。

事業全体の実現にあたっては公文協とのリレーションや補助金事務から資金繰りまで事務局が大いに奮闘され、アートネットワーク・ジャパンのサポートも特筆したい。また東京での「紛争地域から生まれた演劇」制作の櫻井拓見氏、山田真里亜氏が各地域の制作補助に入り企画の下支えをしてくださり、作家との交渉に関しては万里紗氏が尽力して下さった。

更に各地域で本企画に参加され熱量を持って公演に臨まれた俳優、スタッフの皆様の奮闘も大きく、そのおかげもあって観客の評価がSNSで多数寄せられ、アンケートも極めて回収率が高かった。

以上、多くの方々のお力のおかげで無事、企画実現、終了できたことを心より感謝申し上げたい。

林英樹(テラ・アーツ・ファクトリー代表・演出。企画・プロデュース)

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