2024.3.31
NO.135

ワールド・シアター・レポート File. 12「カナダ編」
寄稿:神崎 舞

カナダの舞台芸術にみられる地域性

同志社大学准教授の神崎舞さんに、文化的に多様な社会であるカナダの演劇状況の概観的説明の後、日本でも大変よく知られているケベック州(フランス語圏)出身の世界的演出家ロベール・ルパージュの演劇の特徴を通じてカナダ演劇の魅力を紹介していただいた。


「ワールド・シアター・レポート File. 12 カナダ 」では、地域性という観点から、カナダの舞台芸術の中でも演劇を中心に概観した。カナダはフランスとイギリスの植民地であったことから、英語圏とフランス語圏とに分けられる。今でもかつての宗主国の文化的影響が見られ、演劇も例外ではない。そこでまず、英語圏の演劇を、各地で開催されているシェイクスピア・フェスティヴァルや、いくつかの具体的な作品に焦点を当てながら紹介し、次にカナダの中でも特異な位置づけにあるフランス語圏ケベック州の演劇について、その特徴の一端を説明した。さらに近年、以前にも増してその存在が注目されている先住民について触れ、2018年に上演予定であった『カナタ』を取り上げた。この作品は、フランスの演出家アリアーヌ・ムヌーシュキン率いる太陽劇団が創設以降初めて外部からケベック州出身のロベール・ルパージュを演出家として迎えて共同制作したものである。上演が取り止めとなった背景を中心に、「文化の盗用」と「表現の自由」について考察した。カナダ演劇を通して、カナダという地域的特色を明らかにしつつ、そこに内包されている普遍的な問題を呈示した。

このレクチャーが、日本におけるカナダ演劇の普及に微力ながら貢献できれば幸いである。イギリスやフランス、そしてアメリカ合衆国などの大国の演劇に比べると、カナダはその存在感が薄い。しかしながら、日本でカナダ演劇の上演の機会が著しく少ないとは言い難い。その事実を、これまで実際に上演された具体例を紹介することで、意外にも身近であることを示した。人口減少が進み、異国の人々との共生が、取り組むべき喫緊の問題となりつつある日本において、文化的背景が異なる人々が共生するカナダは、一つのロールモデルとなるのではないだろうか。カナダの文化的に多様な社会は、演劇に葛藤と彩りをもたらしているといえる。したがって、日本における演劇のさらなる発展のためにも、カナダ演劇を学ぶ意味があると思われる。

神崎 舞(同志社大学グローバル地域文化学部准教授)

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