2024.3.31
NO.135

アートキャラバン『Bad Roads―悪路―』  
寄稿:生田みゆき

ウクライナの戦争下の日常を描く戯曲を日本初上演 作家がオンライントークに参加

ウクライナの作家ナターリア・ヴォロズビート作『Bad Roads』は、2022年12月に上演予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響で公演直前に中止となった。しかし、約1年後、2023年度のITI「演劇を通して世界を見る」シリーズの一作として上演が可能となった。以下に、演出の生田みゆき氏による報告をお届けする。


2022年12月東京で日本初演予定だった『Bad Roads』は、同年2月から続くロシアのウクライナ侵攻に関連する題材ということで大きな注目を集めていた。公演中止はとても悔しく、近いうちに再度企画を、と皆で励まし合ったのだが、それが2023年12月に大阪、2024年1月に新潟で実現した。初演に出演予定だった東京圏在住のキャストは二手に分かれ、それぞれの地域で活躍する俳優との共同作業を経て1年越しに『Bad Roads ―悪路―』が立ち上がった。

 大阪・新潟公演に際し、翻訳は村田真一氏による原文との照らし合わせを経て、より作家の意図を深く反映したものになった。俳優とは、様々な資料を共有したうえで、劇場入り直前まではオンラインで稽古した。リーディング公演だからこそ、声に集中して稽古できた点は良かった。それでもオンラインでの通し稽古が2時間を超えていた作品が、対面稽古を経て1時間45分になったことを考えると、やはり実際に人と人が出逢って、言葉を紡ぐことの緊張感が芝居においていかに重要か、再認識させられた。

 現地制作チームとの打ち合わせもオンラインばかりで、実態がなかなか掴み辛かったのではないかと思うが、こちらの企画意図をきちんと理解してくれたうえで、稽古場の準備、劇場の選定、現地俳優及びスタッフの提案から当日運営、そして事後処理までの膨大な作業を滞りなく進めてくれた。

 大阪・新潟の演劇ファンに向けて、十分に周知を図れたかというと課題は残ったが、見てくれた方からは非常に好意的な反応を頂き、また新潟では作家ナターリア・ヴォロズビート氏がオンラインでアフタートークに参加という素晴らしい機会に恵まれた。首都圏以外の観客に向けて、今後も何らかの形で発信し続けられればと思う。

 タイトルに「悪路」という日本語を追加したのは、出演者の寺田路恵さんからの提案だった。タイトルの意味をしっかり日本語で印象付けたことにより、今回新たに加わった俳優スタッフとも、作品テーマを共有しやすかったように思う。日本初演を迎えるまで、それなりに「悪路」もあったが、今となっては充実した、楽しき路(みち)であった。この戯曲を日本に紹介するという重責を果たせたことにほっとしつつ、ウクライナの「悪路」が、いつか「美しい道」となることを願う。

生田みゆき(演出)

Go toTop