10年の時を経て再開した「海外公演調査」
――海外公演の様態の多様化と調査対象の拡張

 国際演劇協会日本センター(ITI)は、この2年、独立行政法人日本芸術文化振興会委託事業「文化芸術活動の動向把握に向けた基礎資料収集事業」の委託を受け、『国際演劇年鑑2026』の企画の一環として、日本の舞台芸術の海外公演についての調査を行っている。

 「海外公演調査」といえば、1990年度から2015年度にかけて特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター(PARC)が文化庁の助成及び委託事業として編集・発行していた『舞台芸術交流年鑑』(全22冊)が先行例として知られている。

 『舞台芸術交流年鑑』は、累計1,200以上の舞台芸術団体・個人の協力のもと、舞台芸術の国際交流公演に関する基礎資料をまとめたもので、大学および公共の図書館などに配布されていた。

 最終巻が発行されてから10年――ITI日本センターはPARCの協力を得て、『舞台芸術交流年鑑』のノウハウを踏襲するかたちで調査をはじめた。

 調査の対象とする分野は、能・狂⾔、歌舞伎、⽂楽、ミュージカル、現代演劇のほか、上記分野を横断する作品とし、NPO法人日本ウニマが『日本人形劇年鑑』で調査を行なっている⼈形劇、また、⼤道芸及び⽇本舞踊、バレエ、コンテンポラリーダンス、舞踏などの舞踊分野は対象外とした。

 2026年は本調査も2年目に入り、この10年間の海外公演をとりまく状況の変化と、それに伴ういくつかの課題があらわになってきた。

 文化コモンズ研究所の吉本光宏氏が『国際演劇年鑑2026』に寄せてくださった調査分析原稿にもある通り、近年、特にプロフィット系の作品で数か月にわたる長期の公演も行われるようになり、公演の「件数」では足らず、「日数」が海外公演の定量調査において「成果」として一定の意味を持ってきたことが、その一つだ。

 また、これまでライセンスを「買う」側だったのが、日本でつくられた作品のライセンスを「売る」かたちでの海外公演が増加してきており、今後も増えるだろうことも変化の一つに挙げられる。

 さらに、『舞台芸術交流年鑑』の調査では、「国内を拠点とするアーティストやカンパニー」の活動に絞り、海外在住の日本のアーティストやカンパニーの海外での公演は調査対象としてこなかったが、フランスのストラスブール国立演劇センター芸術監督として現地で作品をつくるダンサーで振付家の伊藤郁女(かおり)氏のようなケースも出てきており、こうした日本人アーティストの活動を調査に反映するのかも、調査の過程で議論になった(今年は知り得た情報については調査結果に入れている)。

 遡れば、ITI日本センターは、1954年にイタリアのヴェネツィア・ビエンナーレで開催された能楽初の海外公演をプロデュースし、1971年にはフランスのナンシー演劇祭に青年座、天井棧敷、結城人形座を紹介するなど、舞台芸術の国際交流の一端を担ってきた。

 戦後、ITIが国とゆるく連携しつつ日本の舞台芸術を世界へ紹介する窓口となっていた時代があり、1990年代から公的支援、企業メセナと海外公演に関する助成が始まり、一方で、YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)のような制作者の国際的プラットフォームの活動によって舞台芸術の国際交流が促進されてきた。

 そして、2020年代、長く続く日本経済低迷のなか、コロナ禍を経て、東宝やホリプロのようなプロフィット系の本格的な海外進出によって、日本の舞台芸術の海外への紹介は新たな局面を迎えている。

 当センターでは、国際共同製作、ライセンス公演、あるいは海外の劇場を率いて公演を行うアーティストの活動など、ますます多様になる海外公演の調査をよりいっそう充実させ、日本の舞台芸術の海外での活動の現状を明らかにしていきたい。

『国際演劇年鑑』事業担当理事 曽田修司
編集担当 中島香菜

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