「ワールド・シアター・ラボ」2025~2026「戯曲読解ワークショップ」『イングリッシュ』
寄稿:小林春世

 ITI日本センターから、私自身も過去に参加したことがある「戯曲読解ワークショップ」に、今回は翻訳者として関わるお話をいただき、喜んでお引き受けしました。作品は『イングリッシュ』で、以前、私が米国・ニューヨークで観劇し、感銘を受けたものでした。この作品には、特殊な構造があります。
 『イングリッシュ』は、イランにある英語学校が舞台の作品です。そのため、登場人物が母国語のペルシア語を話すときと、第二言語の英語を話すときがありますが、それを、(一部の例外を除いて)全て英語で表現する作品なのです。つまり、登場人物がペルシア語で話している時は流暢な英語で演じられ、英語で話している時は訛りのある「間違った英語」で演じられるという作りです。私にとって、そのような作品の翻訳は初めてでした。英語と日本語は文法や発音が全く違いますから、英語を話すときに起こりがちなミスを日本語に直訳することはできない場合が多く、翻訳者のセンスに委ねられる部分が大きい作品だと感じながら翻訳を進めました。

 そして、完成した日本語版を参加者の方々とファシリテーターの大澤遊さんで読解するワークショップが、4日間に渡って行われました。ありがたいことに応募者多数で選考となり、最終的に選ばれた参加者は12名でした。海外からご参加くださった方々もいらっしゃり、オンラインならではの出会いを嬉しく感じました。
 1日目は自己紹介から始まり、その後、私から作品の背景や作者についてのレクチャーを行いました。そして、参加者の方々が日本語版を声に出して読むという流れになりました。その際、あえて「間違った日本語」で書かれている部分を、正しい日本語に変換して読んでしまうという反応が多く見られたことは、私にとっては大きな発見でした。
 2日目以降は、それぞれの経験から考えることをシェアしたり、イランについて調べたりしながら、活発な意見交換がなされました。このワークショップには、翻訳者だけでなく、俳優や、様々な人生経験をお持ちの方々が参加されるため、多様な意見が飛び出しました。また、翻訳者の私にとっては、大澤さんが英語版をあえて読まずに、日本語版を純粋に読解するファシリテートをしてくださったことで、皆様が翻訳から純粋に読み取れることや感じることがよくわかり、改善すべき部分に気づくきっかけとなったので、大変ありがたかったです。改めまして、このような貴重な機会を与えてくださいましたITIの方々、大澤さん、そして、参加者の方々に心からお礼を申し上げます。

 今こうして作品について綴りながら、ワークショップのときとは大きく変わってしまったイランの状況に思いを馳せずにはいられません。この物語は、イランから遠く離れた地に住む私たちにとって、単なる記号ではない「誰かの人生」を想像するきっかけになるものです。近い将来、この作品が日本でも上演されることを願っています。

小林春世(「戯曲読解ワークショップ」『イングリッシュ』翻訳)

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