2024.3.31
NO.135

50年以上にわたり「舞台芸術のいま」を映してきた『国際演劇年鑑』

『国際演劇年鑑』編集担当 中島 香菜

国際演劇協会(ITI)日本センターが、毎年、国内外の舞台芸術を「日本の舞台芸術を知る―Theatre in Japan」(英語版)と「世界の舞台芸術を知る―Theatre Abroad」(日本語版)の2分冊で発信している『国際演劇年鑑』。今年も、ITIのネットワークをとおして多くの方々が協力してくださった。


◉日本の舞台芸術を知る2023

今号も、「能・狂言」「歌舞伎」「文楽」「ミュージカル」「現代演劇」「児童青少年演劇」「日本舞踊」「バレエ」「コンテンポラリーダンス・舞踏」に「テレビドラマ」を加えた国内10のジャンルのこの1年を振り返る充実のレポートが届いた。

上記、日本の舞台芸術についての原稿は、毎年、各分野の批評家、研究者、また、現場を知る制作者などに執筆をお願いしているが、『国際演劇年鑑』の目的は、この原稿を海外の読者にとどけることだ。

著者から届いた原稿は舞台芸術に強いネイティブの翻訳家によって翻訳され、日本人の校正者が原文の文意、ニュアンスが的確に訳されているかをチェックし、さらにあえて日本語を解さないネイティブチェッカーが最終的な確認をしている。

特に翻訳の難しい古典の原稿は、歌舞伎座で長年にわたりイヤホンガイド解説者を務め、自身も清元の太夫であるマーク・大島氏、ロンドン大学の東洋アフリカ研究学院教授のアラン・カミングス氏、龍谷大学教授で40年以上にわたって能・狂言と西洋演劇の融合を模索してきた「能法劇団」を主宰するジョナ・サルズ氏にお願いした。その分野のエキスパートに翻訳を担当していただけたことは『年鑑』のクオリティを高める上で大きな強みになっている。

◉世界の舞台芸術を知る2022/23

海外各国からは、毎年取り上げている中国、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシアのほか、昨年の『年鑑』で、戦時下で舞台をつくる劇場監督3名のインタビューを届けてくれたウクライナ作家連盟ディレクターのマリーナ・コテレネツ氏が、自身も厳しい状況に置かれながら、戦闘の続くウクライナの演劇について報告してくれた。

また、キューバからは演劇誌『コンフント』編集長でフェスティバル「マヨ・テアトラル」のディレクターでもあるビビアン・マルティネス・タバーレス氏が、『年鑑』初登場の北欧アイスランドからは『ヘイミルディン』紙の演劇担当記者で国立図書館附属演劇博物館の研究員を務めるシグリドゥル・ヨンスドッティル氏が、それぞれなかなか知ることのできない両国の舞台芸術について書いてくれている。

10年ぶり、2度目の『年鑑』登場となったのが、イスタンブール大学に劇批評・ドラマツルギー学科を創設し、20年にわたってイスタンブール演劇祭のディレクターを務めたディクメン・ギュリュン氏。2020年にリニューアルオープンした台湾・クーリンチェ小劇場ディレクターのヤオ・リーチュン氏も2度目の登場となった。

また、近年の国内外でのできごとを紹介する「シアター・トピックス」のコーナーでは、いまアメリカで大きな流れとなりつつあるアフリカ系アメリカ人による演劇の歴史と現在について紹介するほか、江戸から明治への転換期に生きた河竹黙阿弥が「西洋」を取り入れた歌舞伎狂言の試み、さらに、同時代の欧米の前衛演劇に呼応した安部公房の演劇的実験について取り上げた。黙阿弥は没後130年、安部公房は生誕100年を機に企画したものだ。

この「シアター・トピックス」は、日本国内の事象に関する原稿(今年の場合は、黙阿弥と安部公房)については、英語でも読むことができる。国内10ジャンルのレポートとともに、ぜひ海外の読者に読んでいただきたい。

◉アーカイブとしての『国際演劇年鑑』

昨年、2023年に『国際演劇年鑑』は創刊50周年を迎えた。1972年にその前身である『国際演劇資料集』が刊行され、翌年に『国際演劇年鑑』と改称。まずは国内の舞台人に海外の演劇についての最新情報を紹介することからはじめ、1997年には日本の演劇事情を海外へ発信するべく英語版の「Theatre in Japan」を創刊している。

2014年には筆者が長きにわたって『年鑑』の刊行を担ってきた方々から企画・編集を引き継ぎ、今年で10年が経った。改めて初号からの『年鑑』のページをめくってみると、原稿の内容はもとより、登場する演劇人たちの名前、舞台写真、テキストに現れる語句、原稿の書きぶりなどからも、時代の空気が立ち上がってくる。

2014年からは全ページを閲覧できるよう当ITIサイトで公開しているが、それ以前の、『国際演劇資料集』を含む41年分については、ITI事務局の本棚に眠ったままだ。すべての『国際演劇年鑑』をデジタル化し、舞台芸術の国際交流にかかわる資料のひとつとしてアーカイブすることも、編集担当者として考えていきたいと思う。

◉2014年以降の『国際演劇年鑑』は以下のページからダウンロードしていただけます。

https://iti-japan.or.jp/yearbook/

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