『国際演劇年鑑2026』と2年目を迎えた「海外公演調査」 
寄稿:中島香菜

 令和7年度は、独立行政法人日本芸術文化振興会の「文化芸術活動の動向把握に向けた基礎資料収集事業」が2年目を迎えた。
 国際演劇協会日本センター(ITI/UNESCO)が1973年から50年以上にわたって刊行を続けてきた『国際演劇年鑑』は、今年も本事業の委託を受けて実施され、昨年に引き続き「海外公演調査」を主軸として展開した。


◎海外公演調査2025

 令和6年度から行っている海外公演についての調査は、今年度2回目を迎えた。

 調査分析原稿は、今年も文化コモンズ研究所の吉本光宏氏にお引き受けいただくことができ、プロフィット系の大型作品から、地方の私設劇場と海外の私設劇場の共同製作、海外フェスティバルに参加した小劇場まで、幅広く取り上げていただいた。

 また、今年は上記の分析原稿に加え、東宝の松田和彦氏、ホリプロの梶山裕三氏、東京芸術劇場の内藤美奈子氏、ネルケプランニングの松本美千穂氏と、比較的規模の大きな海外公演を手がけておられるプロデューサーの皆さんにお集まりいただき、演劇評論家の内田洋一氏の司会のもと座談会を行った。

 海外との交流をストップさせたコロナが、逆にプラスの一因となって海外公演を後押しした理由、海外公演の経済的リスクの実際から、2025年11月7日の高市首相の所謂台湾有事答弁による中国公演の中止など、リアルな現場の声を聞くことができる。

 「海外公演調査」については、昨年からの経緯と今年の調査の過程ででてきた課題など、当ITIニュース中の記事「10年の時を経て再開した『海外公演調査』――海外公演の様態の多様化と調査対象の拡張」に詳しいので、あわせてお読みいただきたい。


◎日本の舞台芸術を知る2025

 今年も例年通り「能・狂言」「歌舞伎」「文楽」「ミュージカル」「現代演劇」「児童青少年演劇」「日本舞踊」「バレエ」「コンテンポラリーダンス・舞踏」「テレビドラマ」の10ジャンルについて、この1年を振り返るレポートを各分野の批評家・研究者にご執筆いただいた。

 『国際演劇年鑑』は演劇からダンス、古典からコンテンポラリーまで、ジャンルを超えて紹介してきたが、今年の刊行後、筆者のお一人が「多様な舞台芸術を横断的に概括する優れた一書」と評価してくださったことで、いまさらではあるが、『国際演劇年鑑』の独自性を思った。

 英語版には、10のジャンルのうち「歌舞伎」「文楽」「ミュージカル」「現代演劇」「コンテンポラリーダンス・舞踏」の5本を掲載したが、『年鑑』の他にはない「ジャンル横断」という強みを生かすべく、他の5本も英語版に掲載できるよう可能性を探りたい。


◎世界の舞台芸術を知る2024/25

 今年度は、例年取り上げている中国、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシアに加え、オランダを取り上げた。

 オランダ演劇については『年鑑』初登場であり、残念ながらITIオランダセンターの協力を得ることができなかったため、早い段階から現地の演劇雑誌、新聞に執筆している批評家の記事を読み、リサーチを始めた。

 結果、批評家でドラマトゥルクとしても活動し、オランダ政府の顧問機関、オランダ文化審議会で文化政策への提言なども行っているロベルト・ファン・フーフェン氏に執筆を依頼し、ご快諾いただくことができたのだが、その際、氏からうかがった日本とオランダの原稿料の差には驚かされた。

 曰く、通常オランダでの原稿料は1ワードが0.35ユーロ、すなわち原稿用紙1枚(400字)あたり1万円程度で計算されるという。氏にはご無理を言うことになってしまったが、それでも昨今のオランダ演劇界における白人男性中心のナラティヴからの脱却について非常に充実した論考を快く寄せてくださったことに感謝する。

 作品における女性の視点、現場での女性の起用については、同様に、中国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの原稿でも論じられている。ぜひ通してお読みいただきたい。


◎前ITI事務局長トビアス・ビアンコーネ氏による特別寄稿

 2008年からITI本部の事務局長を務められたトビアス・ビアンコーネ氏が昨年、その任を辞された。今号の『年鑑』では、18年間にわたって世界各国の舞台人の対話と交流を推進したビアンコーネ氏に、国際演劇協会の役割、舞台芸術を通した国際理解の重要性、また、日本の舞台芸術、特に古典芸能が世界の演劇に与えてきた影響などについて書いていただいた。

 戦後1948年にユネスコの舞台芸術部門を担当する国際組織として創設されたITIは、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」というユネスコ憲章の趣旨にのっとり、舞台芸術を通した世界各国の相互理解と国際平和の実現に寄与することを目的として活動してきた。

 2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻以降、残念ながらITIの活動はますます重要性を増してきているように見える。今一度、ITI創設当初の理念を思い起こしたい。

 上記の海外公演に関する座談会を行った2025年12月3日は、中国公演が続々と中止になっている最中だったが、年明けの2026年1月2日(日本時間3日)にはアメリカがベネズエラを空爆、さらに2月28日にはアメリカとイスラエルによるイランへの空爆が開始された。

 今後の舞台芸術における海外との交流に少なからず影響があることを予見させる年明けとなったが、『国際演劇年鑑』では引き続き日本の舞台芸術の現状を発信することはもちろん、海外公演を行う先の各国の状況をレポートし、また、実際に海外公演を行ったプロデューサーやアーティストの知見を共有し、今後海外公演をしようとするアーティストやカンパニーが活用できるような誌面にしていきたいと考えている。

◎『国際演劇年鑑2026――世界の舞台芸術を知る』(日本語版
https://iti-japan.or.jp/wp-content/uploads/2026/03/iti-japan_theatreyearbook2026_jp.pdf

◎『Theatre Yearbook 2026: Theatre in Japan』(英語版)
https://iti-japan.or.jp/wp-content/uploads/2026/03/iti-japan_theatreyearbook2026_en.pdf

◎2014年以降の『国際演劇年鑑』は以下のページからダウンロードしてお読みいただけます。
https://iti-japan.or.jp/yearbook/

中島香菜(『国際演劇年鑑』編集担当)

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