ピーター・ブルック(1925 –2022・イギリス)
演出家
演劇に生きる人々にはそれぞれの性格と持ち味があります。彼らはとても感情が豊かです。感情が豊かであるために、彼らの心の動きは素早く、たとえば怒りに達する動きも素早いのです。
革命的な動きが世界に広がる時、演劇人が最初に叫び声を響かせる人々、抗議の声を上げる人々に加わることは珍しいことではなく、しかも革命の余波の収まる頃には、そうした声を上げた同じ演劇人たちが、いち早く過去の生活に戻る人々の列に加わることもよくあることです。
それはなぜなのでしょうか。
劇場では私たちはみな、「かたち」に囚われています。私たちを取り巻くかたち、私たちが拠りどころとせざるを得ないそのようなかたちは、私たちの社会にある他のどのようなかたちと比べても、私たち自身のものではない過去の時代によって特徴づけられています。そして、そうした時代による特徴は感傷的かつ経済的な理由によって生じるのです。
私たちが活動している「建物」はかなり昔に建てられたものであり、そのため私たちの活動の本質は歪められています。建てかえるのは得策ではなく経済的でもないからです。私たちは観客のために仕事をしますが、その観客も滅多なことでは変わりません。観客を引きつける演劇界の構造はそれ自体完成されたもので、変化することが非常に困難だからです。
そのようにして、その時代に呼応すると思われる演劇の問題にどのような視点で向き合うにしても、私たちは結局絶えず同じところに向かわざるをえません。私たちの差し迫った務め、それは私たちが生きる拠りどころとするあらゆるかたちを見直すこと、それも深く、徹底的に、破壊的に、かつ創造的に見直すことなのです。
ではどこから始めればよいのでしょうか?
おそらく私たちの踏み出す第一歩は、とても受け入れ難い事実、すなわち今日、ワールド・シアター・デイを迎えても、私たちの祝福すべき世界の劇場はとても小さいという事実に向き合い、そこから起る困難に正面から取り組むことだと思うのです。
翻訳:石井克弥
Translation: Ishii Katsuya