●4月29日は《インターナショナル・ダンス・デイ》
1982年、国際演劇協会のダンス委員会は《インターナショナル・ダンス・デイ》を創設し、モダンバレエの創始者であるジャン=ジョルジュ・ノヴェール(1727~1810)の誕生日である4月29日をその日と定めました。
毎年発表されるメッセージは、ダンスという普遍的な芸術形式を祝し、楽しみ、あらゆる政治的、文化的、民俗的な壁を越えて、世界中の人々を「ダンス」という共通言語によって一つにするために、世界中に発信されています。
メッセンジャーは、《インターナショナル・ダンス・デイ》を創設したITIのダンス委員会が、ITIの協力パートナーである世界舞踊連盟と協議して選出されています。
●今年のインターナショナル・ダンス・デイ・メッセージ
2026年:クリスタル・パイト(振付家/カナダ)

人は動きます――腕は伸び、膝は崩れ、頭は頷き、上体は丸まり、背中は反ります。そして跳び、肩をすくめ、こぶしを握りしめ、互いを抱え上げ、そして突き放し合います。これらは行為であると同時に、言語でもあります。要求、敗北、勇気、絶望、欲望、喜び、矛盾、いらだち、愛について、私たちは身体を使って語るのです。身体によるこうした概念の表現を理解できるのは、私たちがそれを身体の中でとても純粋に感じてきたからです――人は心を動かされてきたのです。
私たちは皆、ダンサーです。人生に突き動かされ、踊らされるダンサーなのです。息のようにはかないものから、骨のように確かなものまで、私たちからダンスは生み出されます。私たちは空間を彫刻します。私たちは、深く理解される無言の言語を身体によって書き出します。私たちはダンスによって自分の内面と外の空間の両方を優美さで満たします。
人生と同じように、ダンスは一瞬ごとに自らを生み出し、そして解体していきます。愛と同じように、ダンスは理性を超えていきます。
私は身体を、ひとつの場所、存在がそこに宿り、形づくられる場所として考えることにしています。ダンスするとき、私たちはそこに存在することに深く関わります。
私がこのメッセージを書いている2026年前半の今。私たちの世界には終わりが見えないような抑圧や激動や苦しみがはびこっているように思えます。日々、私たちは人間が互いに対してなしうることの恐ろしさを目の当たりにし、そして、人類と地球への筆舌尽くしがたい暴力に資金を与え、それをあおり立てる権力の機構を目撃しています。そうした中では、ダンスは安直で無力な応答しかできないように感じられます。これほど根本的な変化と安心感を強く必要としている世界において、ダンスアーティストに何ができるのかについて考えるのは難しいことです。
それでもなお、芸術は、希望と同じく、愛のひとつの形です。冒瀆に直面してさえも、あえて創造的であろうとする芸術は、硬直していく心をほどいていく溶媒であり、癒やしを与える香油でもあります。芸術は、私たちが問いと格闘するあいだ――共に――私たちを受け止める器です。そのあり方は、ニュースとも、ドキュメンタリーや教育とも、意見表明やソーシャルメディアとも、アクティヴィズムや抗議とも異なります。しかし、それらと両立しないわけではありません。
創造性を通して、私たちは勇気、好奇心、優しさ、協働という小さな行為を積み重ね、抵抗する力と希望を蓄えていきます。ダンスの中に、そしてダンスを創る営みの中に、私たちは、人類が近年の胸が張り裂けそうな世界的失敗だけの存在ではないという証明を見いだします。
しかし、ダンスに正当化や説明が必要というわけではありません。ダンスは私たちからできているけれど、私たちに何も負っていないのです。ダンスに必要なのは、意志する身体に宿ることだけです。身体という場所から、ダンスは言葉にできないものを翻訳し、私たちと未知なるものとのあいだを取り持つ媒介者となるのです。
私たちは、瞬間ごとに現れては消えていく美の痕跡に心を動かされます。そして、ダンスそのものとその消失の両方を身体として生きるとき、私たちは自らのはかなさを感じざるをえません。ただそのとき、もし私たちが注意深くあるなら、ダンスは魂を垣間見せてくれることもあるでしょう。
* * *
Crystal PITE
クリスタル・パイトは、カナダの振付家。バレエ・ブリティッシュ・コロンビアおよびウィリアム・フォーサイス時代のフランクフルト・バレエ団出身。
35年にわたる振付家としてのキャリアの中で、パイトは、英国ロイヤル・バレエ団、ネザーランド・ダンス・シアター、パリ・オペラ座バレエ、カナダ国立バレエ団などのために60作を超える作品を創作。トラウマ、依存、対立、意識、死といった主題に果敢に取り組む創作で知られており、その大胆で独創的なヴィジョンは国際的な称賛を集め、ダンス・アーティストの一世代を代表する存在となる。
ネザーランド・ダンス・シアター、サドラーズ・ウェルズ劇場、そしてカナダ国立芸術センターの3つの機関でアソシエイト・アーティストを務める。また、サイモン・フレーザー大学からの名誉美術博士号の授与のほか、カナダ勲章およびフランス芸術文化勲章オフィシエを受章。
2002年、バンクーバーでキッドピボットを設立。普遍的な問いを凝縮し、翻訳することを試み、人間性の本質的な部分へと結びつける作品を目指す。ダンスと演劇のラディカルな融合で世界的に知られ、ジョナサン・ヤングとの共同創作による『ベトロフェンハイト』『リヴァイザー/検察官』『アセンブリー・ホール』のほか、『テンペスト・レプリカ』『ダーク・マターズ』『ロスト・アクション』『ザ・ユー・ショー』といった批評家から高く評価された作品を携えて、世界ツアーをおこなっている。
2022年のカナダ総督舞台芸術賞、2011年のジェイコブズ・ピロー・ダンス賞、そしてカナダ芸術評議会の2012年ジャクリーヌ・ルミュー賞など数多く受賞。2017年、パリ・オペラ座バレエでの作品『シーズンズ・カノン』によりブノワ賞(ブノワ・ド・ラ・ダンス賞)受賞。2018年、モントリオール舞踊グランプリ受賞。また、キッドピボットや英国ロイヤル・バレエ団での創作などにより、ローレンス・オリヴィエ賞を5度受賞。
翻訳:荻野哲矢
Translation : Ogino Tetsuya
● 歴代のインターナショナル・ダンス・デイ・メッセージ発信者
|
2025 |
ダンサー、コレオグラファー |
ラトビア、アメリカ |
|
|
2024 |
ダンサー |
アルゼンチン |
|
|
2023 |
ダンサー、コレオグラファー |
中国 |
|
|
2022 |
バレエダンサー・韓国国立バレエ団芸術監督 |
韓国 |
|
|
2021 |
バレエダンサー(シュトゥットガルト・バレエ・プリンシパル、 |
ドイツ |
|
|
2020 |
ダンサー、コレオグラファー、俳優、ダンス教育者 |
南アフリカ |
|
|
2019 |
カリーマ・マンスール |
ダンサー、コレオグラファー、教育者 |
エジプト |
|
2018 |
サリア・サヌー |
– |
ブルキナファソ |
|
2018 |
ジョルジェット・ジバーラ |
ダンサー、振付家、キャスター、教育者 |
レバノン |
|
2018 |
ウィリー・ツァオ |
振付家、教育者、キュレーター、マネージャー、ディレクター |
中国 |
|
2018 |
オハッド・ナハリン |
振付家、バットシェバ舞踊団芸術監督、舞踊言語GAGA開発者 |
イスラエル |
|
2018 |
マリアネラ・ボアン |
振付家、ダンサー、教育者 |
キューバ |
|
2017 |
ダンサー、振付家、トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニー芸術監督 |
アメリカ |
|
|
2016 |
振付家、演出家、舞台美術家、芸術家 |
サモア |
|
|
2015 |
フラメンコダンサー、振付家 |
スペイン |
|
|
2014 |
サンティー・スミス |
振付家、ダンサー、カハーウィ・ダンスシアター芸術監督 |
カナダ |
|
2013 |
林 懐民(リン・フワイミン) |
振付家、クラウド・ゲイト・ダンスシアター芸術監督 |
台湾 |
|
2012 |
シディ・ラルビ・シェルカウイ |
ダンサー、振付家 |
ベルギー |
|
2011 |
アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル |
振付家、ローザス芸術監督 |
ベルギー |
|
2010 |
フリオ・ボッカ |
バレエダンサー |
アルゼンチン |
|
2009 |
アクラム・カーン |
ダンサー |
イギリス |
|
2008 |
グラディス・アガラス |
振付家、教育者 |
南アフリカ |
|
2007 |
サシャ・ヴァルツ |
振付家、ダンサー |
ドイツ |
|
2006 |
ノロドム・シハモニ |
カンボジア国王、元ダンサー・バレエ教師 |
カンボジア |
|
2005 |
吉田 都 |
バレエダンサー |
日本 |
|
2004 |
スティーヴン・ペイジ |
ダンサー、振付家、バンガラ・ダンスシアター芸術監督 |
オーストラリア |
|
2003 |
マッツ・エック |
振付家 |
スウェーデン |
|
2002 |
キャサリン・ダナム |
ダンサー、振付家、文化人類学者 |
アメリカ |
|
2001 |
ウィリアム·フォーサイス |
ダンサー、振付家 |
アメリカ |
|
2000 |
アリシア・アロンソ/イリ・キリアン |
バレエダンサー、振付家/振付家 |
キューバ/チェコ |
|
1999 |
マフムード・レダ |
ダンサー、振付家 |
エジプト |
|
1998 |
大野一雄 |
舞踏家 |
日本 |
|
1997 |
モーリス・ベジャール |
振付家 |
フランス |
|
1996 |
マイヤ・プリセツカヤ |
バレエダンサー |
ロシア |
|
1995 |
マレー・ルイス |
ダンサー、振付家、教育者 |
アメリカ |
|
1994 |
載 愛蓮(タイ・アイリェン) |
ダンサー、振付家、教育者 |
中国 |
|
1993 |
マギー・マラン |
振付家 |
フランス |
|
1992 |
ジェルメーヌ・アコグニー |
ダンサー、振付家、Jant-Bi創設者 |
セネガル/フランス |
|
1991 |
ハンス・ファン・マネン |
バレエダンサー、振付家、ネザーランド・ダンス・シアター創設者 |
オランダ |
|
1990 |
マース・カニングハム |
ダンサー、振付家 |
アメリカ |
|
1989 |
ドリス・ライネ |
バレエダンサー、振付家、教育者 |
フィンランド |
|
1988 |
ロビン・ハワード |
ザ・プレイス創設者、実業家 |
イギリス |
|
1987 |
ITIダンス委員会/p> |
― |
― |
|
1986 |
チェトナ・ジャラン |
カタック・ダンサー |
インドネシア |
|
1985 |
ロバート・ジョフリー |
バレエ振付家 |
アメリカ |
|
1984 |
ユーリー・グリゴローヴィチ |
バレエ振付家、ボリショイ・バレエ団バレエマスター |
ロシア |
|
1983 |
― |
― |
― |
|
1982 |
ヘンリク・ノイバウアー |
バレエ振付家、演出家、教育者 |
スロヴェニア |
iti-japan 国際演劇協会日本センター




