2021年:フリーデマン・フォーゲル(バレエダンサー[シュトゥットガルト・バレエ・プリンシパル、
すべては動くことから始まります。誰もが生まれながらに備える“動く”という力を、磨き上げ、交感のために昇華させたものこそ舞踊です。舞踊にとって、卓越したテクニックは観る人に深い印象を与える大切なものですが、肝心なのは舞踊家がそれぞれの動きでなにを伝えるかです。
踊るとき、私たちは常に、忘れがたい瞬間を生み出すことを切に願います。ジャンルによらず、舞踊家であればあの瞬間を求めるはずです。昨年は、不意に劇場が閉鎖され、フェスティバルが中止となって、私たちは人前で踊ることができなくなり、舞踊界は静まりかえりました。身体の接触がない。公演がない。観客がいない。舞踊関係者たちがこれほど結束して自分たちの存在理由(レーゾンデートル)を探したことが、近来あったでしょうか。
私たちは確実に、かけがえのないものを奪われました。そして奪われることで、この舞踊という営みがいかに生命力にあふれ、ひろく社会にとって必要であるかをあらためて認識しました。舞踊家は身体能力ばかりを評価されがちです。たとえその力が強靭な精神に由来するものであったとしても。私たちの持つしなやかな肉体と精神こそ、この危機的状況にあっても踊り続け、新しい作品を生み出し、人々に力を与えるための助けになるのだと私は信じます。
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Friedemann Vogel
「芯のぶれない世界のスター」と称され、2019年、ドイツのダンス専門誌「タンツ(Tanz)」により「ダンサー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。本賞の受賞は2010年に続き2度目。2020年には、長きにわたる輝かしい国際的活動に対してドイツダンス賞(Deutscher Tanzpreis)を受賞した。
長編ドキュメンタリーのタイトル『フリーデマン・フォーゲル——ダンスの化身(邦題:フリーデマン・フォーゲル——ダンスに生きる/独題:FRIEDEMANN VOGEL—Verkörperung des Tanzes/英題:Friedemann Vogel—Incarnation of Dance)』は、物心ついたころからダンスの道を歩んだフォーゲルにふさわしい。多くの賞を受賞し、20年にわたってスカラ座やボリショイ劇場、東京の世界バレエフェスティバルなど、世界中で評論家と観客を魅了し続けている。ドラマティック・バレエでは深い感動を与え、コンテンポラリーでは刺激的なパフォーマンスを展開するとして高く評価されている。ドイツ国内で最上位のダンサーに与えられる称号「宮廷舞踊家(カンマーテンツァー)(Kammertänzer)」を持つ。
*フリーデマン・フォーゲルの詳細は以下オフィシャルサイトをご覧ください
friedemannvogel.com
翻訳:後藤絢子