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2022.4.29
インターナショナル・ダンス・デイ メッセージ


 
2022年:(カン)秀珍(スジン)(バレエダンサー・韓国国立バレエ団芸術監督/韓国)

KANG Suejin
撮影:Jail Souen
 

 COVID-19という災禍は、私たちが慣れ親しんだ自由な生活を奪い去りました。この悲劇の中にいると、「ダンス」や「ダンサー」の意味について問い直しを促されます。遠い昔、ダンスは身振り手振りでコミュニケーションする原始的な手段でした。それが観客の心を揺さぶり感動させるパフォーマンスアートへと発展したのです。ダンスは全身全霊を賭けるため、一度上演した同じ動きを繰り返すのが難しい、うたかたの芸術です。それは、はかない瞬間の集積であり、そしてダンサーは永遠に踊りつづける運命にあります。しかしCOVID-19は、そうしたダンスの本性を押さえつけ、行く手をさえぎったのです。

 現在、状況は改善しつつあるとはいえ、ダンス公演はまだ多くの制約を受けています。だからこそ、人間の苦悩や不安、生きる意志や希望を伝えるために、ダンスとダンサーが宝石のように輝き世界を照らしていた頃の貴重な記憶を大切にしたいのです。

 中世ヨーロッパで流行したペストをモチーフにさまざまな作品が生まれましたが、1841年6月28日、死を超える愛を描くバレエ『ジゼル』がパリ・オペラ座で上演され、爆発的な反響を呼んだことを思い起こすことも大事でしょう。以来、『ジゼル』はヨーロッパ全土はもとより、世界中で上演され、パンデミックに苦しめられる人類の心を慰め、励ましてきました。そして、世界の苦しみという重力から逃れようとするバレリーナの偉大な精神が、まさにその『ジゼル』の上演で初めて示されたと私は理解しています。

 孤独で疲れた観客は、ダンサーとの共感や慰めを渇望しています。私たちダンサーは、自らの翼を羽ばたかせることで、ダンスという芸術を愛する人々の心に、希望とパンデミックを乗り越える勇気とを与えられると信じています。

 今から胸の高鳴りをおさえられません。

姜 秀珍

* * *

KANG Sue-jin

淑明女子大学校(韓国・ソウル)舞踊学部名誉博士。シュツットガルト・バレエ団のソリスト、プリンシパル・ダンサーを15年以上務める。2007年、ドイツの称号「宮廷舞踊家(Kammertänzerin)」を授与される。2018平昌冬季オリンピック名誉大使。
姜秀珍は、その名声と技能を生かし、障害を持つ子供たちにダンスを教える活動をおこなっている。

〈受賞/栄誉歴〉
1985年 ローザンヌ国際バレエコンクール(スカラシップ賞)
1990年 大韓民国大統領賞
1999年 ブノワ賞(最優秀女性ダンサー賞)
1999年 韓国・3等宝冠文化勲章
2001年 第9回KBSグローバル韓国賞(芸術・文化部門)
2002年 湖巌(ホアム)財団湖巌賞(芸術部門)
2007年 ジョン・クランコ協会ジョン・クランコ賞(ドイツ)
2007年 韓国・国民勲章石榴章
2014年 ドイツ・バーデン・ヴュルテンベルク州功労勲章
2014年 皐雲(コウン)財団皐雲文化賞
2015年 韓国文化体育観光部世宗文化賞(芸術部門)
2015年 韓国ジャーナリスト協会「誇らしい韓国人大賞」(芸術・文化部門)
2016年 パラダイス文化財団パラダイス賞特別功労部門
2016年 韓国ドイツ協会第9回李(イ)弥勒(ミルク)賞
2017年 第7回大韓民国韓流大賞純粋芸術部門特別功労賞受賞

*姜秀珍については、以下のサイトもご覧ください。
http://www.korean-national-ballet.kr/en/staff/artistic_list
https://en.wikipedia.org/wiki/Kang_Sue-jin

翻訳:荻野哲矢