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1988.3.27
ワールド・シアター・デイ メッセージ


 

ピーター・ブルック(1925 –2022・イギリス)
演出家

世界中のアーティストたちには何かしら共通するものがあるのでしょうか? 驚くべきことにその答えはイエスです。みな自分なりのやり方で真実を表現しようと切に願っているのです。真実に到達する道は、ひとつの伝統、ひとつの文化に根差したものである、ひとつの土壌にそのルーツを持つものであるはずだ、と長い間信じられてきました。私は多様な地への旅と探検を通じて、それとは異なる結論に至りました。西洋世界の外にある多くの国々において演劇界の仲間たちと議論を交わすと、必ずひとつの重大な問題に行き着くことになります。すなわち、西洋の影響とプレッシャーに対してどのように対応すればよいのかという問題です。

西洋のやり方を模範とするべきなのか? 自身の伝統的なかたち、自身の民族的なルーツに回帰するべきなのか? 別の文化へと溶け込んでいくべきなのか、あるいは自らの属する文化に浸りきるべきなのか? いや、私は別の道があると信じます。決まりきった様式上の伝統や手法によらずに、見出すべき真実、私たちを感動させる真実、私たちの心を揺さぶる真実が存在すると私は思います。紛れもない真実は瞬間瞬間に現れるものです。多方面からの影響が、光の集まるように、あるいはぶつかり合うように相互に作用する時、新しい視界が、鮮やかで驚くべき眺望が開けることがあるのです。

かつて、さまざまな粒子のぶつかり合いからまばゆい光が生みだされるように、ひとつの文化のなかにおいて、タイプも年代も違う強い対照をなす人々を基盤として良質な劇団が築かれました。現代では、そうした演劇におけるぶつかり合いを、劇的に異なるバックグラウンドを持つ俳優たちを共演させることで一層鮮烈なものとすることができます。

このプロセスはまた、ほとんどの観衆がかつてないほど多彩な人種で構成されるようになってきた世界に呼応するものです。そして、単一の文化の中にある個人でさえも、広がり続けるグローバルな影響の混交によって条件づけられている状況にも合致しているのです。舞台上でさまざまな文化が混じり合う時、観衆は精確でありながら普遍的な真実を目撃する場を共にするのです。

ちょうど国際演劇協会が設立された頃に私は演劇人として歩みだしました。勝者の単一な文化で強引に支配しようとする企てのために、私たちの世界が危うく滅亡しかかった直後に、協会と私は共に歩み始めたのです。

世界の演劇人を結びつけ、互いの情報を交換する活動は、ユネスコの使命および国際連合自体の使命と同じ論理に沿ったものです。設立からの40年間を通じて不変であった国際演劇協会の価値は、おそらく協会にとっての真実もまた、この世界のさまざまな文化の中にあって協会が可能にした、異文化の無限の組み合わせと相互作用から生み出されている点にあると言えるでしょう。
 

翻訳:石井克弥
Translation: Ishii Katsuya