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堀内元さんレクチャー『次代へのメッセージ~バレエで世界をつなぐ~』抄録 3/3


<質疑>
Q:ダンサーのからだのケアをする仕事について関心があります。バレエ団には、このような仕事をする方がいるのでしょうか?バレエ団の経済条件によっても異なるとは思いますが、もしもいらっしゃるようであれば、どのような資格を持っている方がこのような仕事をされているのか教えてください。
A:セントルイスには専属のトレーナーがひとりいます。彼の場合は「フィジカル・トレーナー」です。けがの予防やメンテナンスのトレーニングを専門としている方で、週に2回来て、みんなのことをみています。万が一けがをしてしまった場合には、病院にかかります。ダンサーを診察するお医者さんがいて、24時間体制で、なにかあったらすぐそこに駆け込んでみてもらい、レントゲンやMRIで診断します。もしも捻挫や骨折などがわかった場合、治療費はバレエ団が全額負担します。

 ぼくも2年半前、踊っている間にけがをしまして――右腕と肩を支えている筋肉が4本あるんですけど、3本を切りまして――病院で内視鏡の手術をしました。そうしているうちに、左を2本切って――もう、年なんですよ(笑)―-手術とか治療で1000万円以上かかったんですが、お金は全部、バレエ団がもちました。そういう保険の契約になっています。

Q:バランシン、ロビンスとの作品でもっとも記憶に残っている作品は?
A:すごくたくさん作品があるから選べないんだけど、お客さんの視点で作品をつくっているというところがすばらしいと思います。
 バランシンの作品には必ず「イントロダクション」と本題と「フィナーレ」みたいなのがあるんです。構成がしっかりしていて、お客さんとしても、ひとつの作品を観たという達成感が持てるんです。
 ジェローム・ロビンスはなにか、小舟で川を行くような感じ。気が付いたらどこかに行き着いているんですね。バランシンみたいに決まりがない。これがジェローム・ロビンスの作風だと思います。
 バランシンもロビンスも好きです。こういう作風が見えたときに「いいな」と思う。どの作品がいいというのはなんとも言えません。バランシンと直接のかかわりがあって、現役で踊っているのはたぶんぼくくらいしかいないと思います。ぼく以外は、みんな現役から退いているので。ぼくが「この作品がいい!」なんて言っちゃったら、先輩になにを言われるかわからないですしね(笑)

Q:堀内さんがニューヨーク・シティ・バレエで踊っていらしたころから30年くらいになりますね。そのころと比べて、いまのシティ・バレエはなにか変りましたか?
A:ぼくは進化していると思います。ダンサーのテクニックはどんどん進化していると思う。たしかに、なかには、作品そのもののエッセンス(オリジナルの作品が伝えようとしていること)が観客に伝わっているのか、疑問に思うような作品もありますが、テクニックやエンターテインメント性は引き継がれていると思います。

 ニューヨーク・シティ・バレエのすごいところはシステムですよね。あるひとつの「システム」を作り上げてしまっている。まずバレエ学校があって、新しいダンサーたちが育っていき、このダンサーたちが引退するころには次のダンサーが育っている。それをしっかりマーケティングし、宣伝していくというチームがいる。寄付するひとたちを育てていくチームもあるし、ボランティアもいます。組織がしっかりしていて、システムを円滑に動かしているんです。

 それから貯金。貯金があるバレエ団っていうのはそんなにないと思うんです。ニューヨーク・シティ・バレエの年間予算は約60億円なんです。そのほかに貯金があるんです。100億円あるんです。100億円の貯金があるバレエ団なんて日本にはないですよね。世界にもないと思うけど。システムをつくって、長い目でダンサーを育てて、作品をつくる――長期的なプランを持っているバレエ団がニューヨーク・シティ・バレエですね。ぼくはこういうシステムをセントルイスでも作っていきたいと思います。

 たまたま今、ダンサーがちょっと弱いとか、作品が伝わらないとか、そういうことがあるかもしれません。でもそれは長い歴史のなかの一時期にすぎないと思います。またいつか、ダンサーがもっともっと飛躍する時期がやってくるだろうし、もっとすごい作品が生まれることがあるだろうし。これを長期的な目で見ているのがニューヨーク・シティ・バレエだと思います。

Q:昨今のニューヨーク・シティ・バレエはかつてに比べると、それぞれのアーティストの個性が薄くなっている気もしますが……
A:作品づくりにはアーティストの生きている時代が反映されると思うんです。ひょっとすると、いまの時代の傾向として「何年も記憶に残らなくてもいいんじゃない?その場で光ればいい」という意識がダンサーのなかにあるのかもしれませんね。
 70~90年代って、いまほど情報が氾濫していなかったから、ひとつひとつの公演に対する自分たちの意識ももっと深かったかもしれません。そのころは記憶に残さないといけなかったのに、最近はビデオでもYou Tubeでも観られる。だから踊る側も「こうやっておけば残るだろう」という意識を持っているのかもしれません。

Q:観客層に小さい子どもやお年よりが多い日本のバレエ・シーン。働いている世代はあまり観に来ていないようです。「劇場に来てください!そうすれば魅力にとりつかれますから」なんて言ったりしますが、実際、とりつかれることなんてそうそうないと思うんです。どうすれば観客を育てることができるでしょうか。
A:セントルイスでは、バレエダンサーを4~5名のチームで小学校に送り込んで、バレエのデモンストレーションをしているんです。小さな規模のバレエ団ではありますが、ミズーリ州と、セントルイス市からも援助をもらっているので、ある意味、それが義務でもあるんです。きちんとEducational program(教育プログラム)をやらないと、寄付も集まりません。

 学校で「今度『白鳥の湖』やるよ。こんな感じ」と言って少し観てもらったり、「バレエでは男性のダンサーが女性のダンサーを支えるんですよ、ちょっとやってみよう」と言って体験してもらったりすると「おおおー」なんて盛り上がる。こういう草の根運動みたいなことをやっている日本のバレエ団は少ないですね。そこから教育していかないと。

 まず、観るお客さんを育てるのが大事。やるひとは多いんですよ。バレエをやる女の子は多いんです。ぼくにも娘がいるからね、ピアノとか、バイオリンとか、バレエというのに親が送り込もうと思うのはわかります。でも、観るお客さんを育てるという努力はされていないんだと思うんです。だから、観るひとを育てるには、自分が学校へ行って、観る面白さを伝える必要がある。「わたしはバレエを踊れないけど、観るのも面白いんだね」とか「[バレエを踊るとき、]立つのも大変なんだね」ということを子どもの段階から教えてあげるのが大切だと思うんです。この取組み、アメリカではすごくやっています。日本ではまだまだやっていませんね。これは新国立劇場がやるべき。教育プログラムを国がやっていないというのはまったく理解できない。これがまずやらなくちゃいけないことだと思います。

 働く世代をひきつけるために、幕が上がる前にお客さまへお話をする(前説【まえせつ】をする)というようなことは日本のバレエ団でも行われているかもしれません。終演後にダンサーたちとの懇談会をもうけるとか、こういうことも必要だと思います。

 セントルイス・バレエのホームページでは、子どもでも読めるような『くるみわり人形』のお話をダウンロードできるようになっています。子どもに読んであげて、劇場に連れてきてもらいたいと思ってやっています。開演前のお話では、公演がどのスポンサーによってできるようになったのかについてもお伝えしています。こんなふうにぼくたちは「直接はたらきかける」ことを心がけています。

 日本の場合は「ハイ、みせました! ハイ、おわり! あと、知りたいことがあったらプログラム読んで!」みたいなどっかりした姿勢があるんじゃないか。お客さまに近づいていき、寄りそう(reach outする)という部分がちょっと少ない気がします。

 結局は制作する側の努力だと思います。それによってお客さんは増えていくし、自然と増えることなんてまずないし、「観にくれば楽しめて虜になる」とか「いい作品を観ればついてくる」なんて絶対ないですから(笑)。

 環境づくりが必要ですよね。劇場に入ったらすごくすてきなお客さまたちがいて、すてきなドリンクを飲んで、すてきなバレエをやっている。それを観てはじめて感動するんですよ。だれでもタダで入れるようなファミリー劇場に行ってそこでどんなにいい作品をやっていても、子どもがギャーギャー泣いていて、お母さんが行ったり来たりしてるようなところで観ても感動しないんです。

 吉田都さんとも話していたんです。都さんの場合はコヴェントガーデン、ぼくの場合はリンカーンセンター。あの劇場のお客さんのにぎわいのなかで、ぼくらは楽屋を出入りする。「自分がここのコミュニティの一員なんだ」という気分、これが感動するんですよ。ぼくも、あそこで舞台を観て感動して「あの一員になりたい」と思ったから一生懸命頑張ったんです。

 そういう環境づくりも大切だと思います。そこに自分の娘や息子を連れていく。子どもたちは「お父さんやお母さん、こんなところによく来るの?」と思って、舞台を観るでしょ、それでまわりのひとたちがすごい拍手をする、それで「これが芸術なんだ」と思う。それが今の日本には必要なんだと思います。ものすごい道のりですよ。今日明日にできるものじゃない。だけど誰かがはじめなくちゃいけないし、意志を持っているひとがいれば、それにみんなついていくし。そういう制作側の人間が必要ですね。

Q:日本におけるバレエのニーズとはなんでしょうか。また、なにをもって日本のバレエが発展しているといえるのでしょうか?
A:ニーズはつくるもの。バレエにたずさわるぼくらが学校に行ってはじめて、ニーズが生まれると思います。学校といっても、小学校だけじゃなくて中学や高校に行ったっていいんですよ。

 ニーズがないのは、お客さんたちの責任でもなんでもなくて、バレエを発展させたいと思っているひとたちの責任なんです。本当にバレエを発展させたいと思うなら、そういう活動が100のうち80、そして自分たちのやりたい公演は20くらいでいいと思うんです。そこまでしないとニーズは生まれない、というか、バレエに向いてこないと思います。もっともっと、自分たちが働きかけるという姿勢が必要なんだと思います。

 日本人ってそもそも舞台芸術が好きなんだと思います。どこかに出かけて行ってなにかを観るという習慣もあるのだから、バレエもうまくいけば、そこに乗っかって、どんどんどんどんお客さんも増えていくと思うんです。

 野球もそう。当時「大リーガー」と呼ばれていた人たちと一緒にやっていって、それで自分たちの文化をつくっていったでしょう? そういうのをバレエに取り入れたって面白いと思う。オーディションをするとき、20人中3人は外国人枠で、アメリカとかロシアから呼ぶとか(笑)。多様化しないといけないと思うんですよ。

 「あそこにいけば面白いものを観られる」とか「知り合いに会える」、「面白いひとに出会える」とか「デートに使える」とか、そういう環境づくりが必要だなという気がします。日本に帰ってくると、「作品をどうしようか」とか、内容のことばかり相談されることが多いのだけど、環境づくりがおろそかになっているんじゃないかな。

Q:いま、バレエを教える仕事をしています。教室に16歳になる男の子がいます。アメリカでこの年頃の男の子を教えるときに気を付けていることがあれば教えてください。
A:男の子を教えるのって、むずかしいと思う。女の子を教えているときのほうが返ってくるものがあるのね。

 レッスンのときに「これやって」っていうと、女の子はとりあえずなにかやってくれる。でも、男の子の場合って、まず「ええ?なにそれ?」というのが一回あるわけ。それで一回自分でこなして「ああ、なるほどね」といって返ってくるように感じます。なかなかいろいろ大変だと思うのだけど、なにか放り投げたあと、男の子には時間を与えてあげる。そうするとね、ちょっとずつ返ってくる。女の子の場合はがんばってついてくるんだけど、男の子の場合は遊ばせるのがいいかもね(笑)。男の子たちのいるスタジオで出稽古させて、解放させるのも手かもしれませんね。

Q:教え方についてのモットーや考え方、アドバイスなどがあれば、教えてください。
A:生徒の立場にたって教えることですね。先生の知っていることをみんなに知らせるのではなくて。

 たとえば、「右、左、横、次、左行って右……みたいなコンビネーション、先生ができるから、みんなもハイ、これやりなさい!」って言って生徒にやらせるでしょ、それで生徒が間違えちゃうと「ホラ、できない!」という。これが日本の教え方だと思うの。
 ぼくの場合はそうじゃなくて、もっとシンプルです。ステップとかをとにかくシンプルにする。たとえば「右行って。左行って、それだけ。右行って、左行って、それだけ」。それを何回も何回も練習させる。そうすると、生徒は技術のことだけを考えて一生懸命練習する。
 先生のまねをしたことで上手になるのではなくて、生徒の動きじたいが良くなっていく。こういう教え方をぼくは目指しているんです。

 はじめてジョージ・バランシンのレッスンを受けたときにすごくびっくりしたのは、「タンジュ」の練習方法です。日本ではコンビネーションで覚えさせるレッスンを受けていたけど、バランシンのところでは、足を前に出すのを何度もやる。「あ![脚が]つっちゃった!」なんてこともあったけど(笑)筋肉がつくんですよ。それに、いろんなことを考えずに集中できるんです。ジャンプもひたすら上に、まっすぐ飛ぶ。そうすると、まっすぐ、高く飛べるようになる。

 だからやっぱり、自分の知っていることを教えるんじゃなくて、生徒が上達する教えかたをするのがすごく必要だと思います。
 日本人の意識のなかには、鎖国的な意識があるんだと思う。自分がどこかから学んできた大切なものをシェアすることですごくうれしくなっちゃうのね、先生として(笑)。先生はなにもしゃべらなくてもいいんですよ、生徒のことを見て「もっと高く飛んでみなよ、足の先、伸びてないよ、もっと伸ばしなよ」という教え方でこそ生徒は伸びていくんですよね。そういう教え方を心がけています。

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