shochiku
201401~2
tomin_b
W468×H60_r1_c1 (1)
toho

「国家情報会議」および「国家情報局」設置に関する声明


この度、当センターでは日本政府による「国家情報会議」及び「国家情報局」設置の動きについて、国際演劇評論家協会(AICT)日本センターとともに「共同声明」を発表しました。

*****

 私たち舞台芸術に関わる者は、日本政府が現在進めている「国家情報会議」および「国家情報局」設置の動きについて、強い懸念を表明します。これらの制度は、外国の諜報活動や安全保障上の脅威に対処するために国家のインテリジェンス機能を集約するものと説明されてはおりますが、そのような監視・情報管理体制の強化は、社会の言論環境や文化活動を萎縮させる可能性をはらんでいることは、歴史を見ても明らかです。特に、言語を媒介とする芸術である演劇の「表現の自由」に重大な影響を及ぼしかねないことを、演劇の実践活動と批評活動に関わる私たちは深く危惧しております。

 演劇は古来、そして現在も、社会の矛盾や権力の構造、国家が語る物語そのものを問い直す公共の芸術として、2500年以上の歴史を経てきました。近現代においては特に、戦争や軍事、国家アイデンティティ、歴史認識など、社会の根幹に関わる問題が舞台で取り上げられ、市民のあいだで共有され、議論の土台となってきたことは、多くの優れた劇作品や演出家、俳優、批評家、研究者の活動が証明していることです。そうした作品が上演され、多様な人々のあいだで語り合われる社会の基盤こそが「表現の自由」にほかなりません。日本国憲法第21条は、思想および言論・表現の自由を民主主義社会の基本原理として保障し、国家権力による思想や芸術への介入を厳しく制限していますし、演劇における自由な表現環境もまた、民主主義社会の重要な基盤の一つなのです。

 しかしながら、近年、世界各地で監視制度の拡張が文化や言論の環境に影響を及ぼしていることが指摘されています。例えばロシアでは、2012年に国外から資金提供を受ける団体を「外国エージェント」として登録する制度が導入されました。その後の法改正により適用範囲は拡大し、文化団体や芸術家、ジャーナリストにも及ぶようになり、その結果、国際交流を担ってきた多くの市民団体や個人が、外国勢力の利益を促進する存在と同一視され、排除される危険にさらされるようになりました。欧州人権裁判所も、この制度が言論や結社の自由を侵害するものであると指摘しています。

 さらに深刻なのは、表現者自身が監視や排除を恐れ、無難な題材を自ら選び取るようになる「自己検閲」の拡大です。この現象はしばしば「やわらかい検閲」と呼ばれ、国家による直接的な禁止がなくとも、暗黙の合意や周囲への忖度によって、文化や言論の活力を徐々に奪い、弱体化させるものです。なぜなら演劇は、異なる文化や政治的立場を持つ他者への理解と共感を育てるうえで、特別な力を持つ芸術だからですし、劇場は観客が自ら経験していない歴史や他者の立場を想像し、体験する公共空間でもあるからです。子どもたちや若い世代がそのような場で社会や世界の問題を想像的に考える機会を失ったまま育ち、演劇その他の文化を通じた国際的対話に対して消極的な、偏った社会が形成されるならば、文化のみならず社会全体の精神的物質的基盤を損壊することになりかねません。

 文化の多様性と「表現の自由」は、民主主義社会の基盤であり、国際社会が共有してきた価値です。先の大戦において演劇が経験した弾圧の歴史、そして戦後、平和的共存のために培われてきた演劇の国際交流の歩みを次世代に継承してゆくことは我々の責務でもあります。その歴史的教訓を踏まえ、私たちは「国家情報会議」および「国家情報局」の制度設計について最大限の懸念を表明するとともに、社会に開かれた十分な議論と慎重な再検討が行われることを強く求めます。

2026年3月31日

国際演劇評論家協会日本センター
安達紀子、穴澤万里子、石井達朗、井上優、今井克佳、今村修、岩城京子、岩佐壮四郎、内田洋一、梅山いつき、エグリントンみか、太田耕人、岡田恒雄、小田幸子、河合祥一郎、菅孝行、坂口勝彦、沢美也子、柴田隆子、上念省三、須川渡、鈴木理映子、瀬戸宏、高田和文、高野しのぶ、竹田真理、橘涼香、田中綾乃、谷岡健彦、田村真弓、塚本知佳、寺尾格、中西理、林あまり、針貝真理子、平田栄一朗、藤井慎太郎、藤城孝輔、星野明彦、松岡和子、松山響子、丸田真悟、三宅舞、村井華代、目黒慎吾、本橋哲也、山口宏子、山田勝仁、山本健一、山口遥子、吉原ゆかり

公益社団法人国際演劇協会(ITI)日本センター 理事会有志

*****

Check Also

国際演劇年鑑『2026』公開のお知らせ

1972より発行を続けておりま …