会員の菱沼彬晁さんより、翻訳書籍刊行のお知らせです。
『主演女優』(上・中・下巻)
陳彦(著)/菱沼彬晁(訳)/晩成書房
菱沼さんより、参考文をいただきました。
【参考文】
全中国に猛威をふるった〝文化大革命〟が終ると、それまで階級の敵として蛇蝎視されてきた中国の伝統劇は各地で次々と息を吹き返します。中でも中国最古の伝統劇とされ、歴代王朝の故地である陝西省発祥の秦腔(チンチアン)は北京や上海の観客を熱狂させる人気を博しました。『主演女優』の主人公は陝西省僻遠の山中で極貧の農家に生まれ、11歳のとき一家の〝口減らし〟のため地元の劇団に入ったのは文革終息の1976年でした。彼女の才能を見出したのは、ずっと舞台から追放され劇団の門番などに身をやつしていた女形(おんながた)や立ち回りの老芸人たちでした。彼らは新中国の成立以前から旅回りの一座として全国を放浪し、世の偏見、蔑視、差別を凌ぎ、持ち前の放縦な気質に加えて一癖も二癖もある奇人・変人揃いでしたが、芸にかけては一歩も引かぬ〝芝居の鬼〟でした。酷烈を極める稽古場風景が秦腔の芸の極致、その魅力をあますところなく伝えてくれます。激動する中国現代史を背景に1976年からほぼ現代に至るまで中国の都市と農村の生活と人々の意識、劇団内部の芸術路線の矛盾と対立が克明に描き出されるのも興味深いところです。黄砂吹き荒ぶ中、俳優たちがトラックの荷台に身を寄せ合ってうずくまり、全身砂まみれになって移動する農村巡演の光景は、この国の農民たちがいかに芝居を愛し、来演を待ち望んでいたかを物語っています。
2019年、第10回「茅盾文学賞」受賞。作者の陳彦(ちんげん)は中国作家協会副主席、中国戯劇家協会副主席を兼ねています。
【訳者】
菱沼彬晁
1943年11月北海道美瑛町生まれ。早稲田大学仏文学専修卒業。
翻訳家、(公益社団法人)国際演劇協会日本センター理事、日中演劇交流・話劇人社事務局長、元日本ペンクラブ理事・財務室長、北京語言大学世界漢学センター日中翻訳センター長。
ITI日本センター主催で上演した『ボイラーマンの妻』(作・莫言)他、中国現代戯曲、中国現代小説、中国演劇評論など、中国文学の翻訳業多数。
2000年に湯浅芳子賞、2021年に第15回中華図書特殊貢献賞、2021年に中国文化訳研網(CCTSS)特殊貢献賞を受賞。