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【参加者レポート】ワールド・シアター・ラボ「海外戯曲の戯曲読解から場面を立ち上げるワークショップ」(2022年1月『パラナ・ポラー』)


 

2022年1月16日(日)、1月22日(土)、1月23日(日) に行われた、ワールド・シアター・ラボ「海外戯曲の戯曲読解から場面を立ち上げるワークショップ」。

アルゼンチン戯曲『パラナ・ポラー』を題材に、竹中香子さんのファシリテートのもと、濃密な3日間となりました。

(実施詳細についてはコチラ)

ワールド・シアター・ラボ「海外戯曲の戯曲読解から場面を立ち上げるワークショップ」(対面、2022/1/16・1/22・1/23)

参加者のみなさまからのレポートをご紹介いたします。

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ワールド・シアター・ラボ「海外戯曲の戯曲読解から場面を立ち上げるワークショップ」感想
勝田智子

とても濃く充実した3日間でした。
グループでのディスカッションや作業が多いなか、これだけお互いを尊重しあえた作業は珍しく感じます。

よくある、否定が多く飛びかい誰かが無い存在にされる、マウントの取り合い、拘りが多すぎて全く前に進まない…そういった、ただ嫌な気持ちで終わり、何の時間だったのだろう? と虚しくなる事が、どのグループになっても無かった事が奇跡的に思いました。
これは、1日目に竹中さんが示して下さった『話し合いの仕方』を全員が共有出来た影響が大きいと思います。
『安全な場所』があると、人は、自分も他人も大切にしながら提案を出し合え、発展していける、という事を改めて実感出来ました。

特に興味深い発見は、「海外戯曲を翻訳し、多文化の観客に対して上演する意義」についての意見でした。
私自身は、多文化や宗教等なかなか共感しにくい事を肌で理解出来る、反対に、どの国でも人は同じ概念を持っていると知る事が出来る=身近に感じられる、と思っていたものの、じゃあ来日公演でも良いじゃないか、という引っかかりも自分の中にありました。
すると、同じグループ内でこの話題になった時、来日公演だと他人事に感じてしまう、日本人(同じ人種)が演じる事によって、他人事では無くなる=自分と似た身体を持つ人、それ自体が通訳代わりになるのかもしれない、と自分に新しい観点が生まれました。

翻訳についても、以前から悩んでいた、翻訳家の方が演出の役割も兼ねてしまっている事について話が出た事が有意義でした。正解を出す事は難しい問題ですが、今回は翻訳家さんも参加だった事で、その視点を聞く事が出来てとてもありがたかったです。

課題の中で、俳優以外の視点で考える事も多く、「提案」の幅が広がったように感じます。
「提案」を持つ重要性は、近年とても痛感していました。
まず、自分自身が良い準備をして「提案」をたくさん持てるようにする。近年、別のWSでその準備の仕方を学べたものの、ではそれをどう提示するかも私の大きな課題でした。
今回はその「提案の出し方」を学び、3日目の実演に向けたグループでの話し合いで、僅かながら実践も出来たように思います。

英語圏の翻訳劇もとても面白いですが、今回のアルゼンチンのように、言語も文化も分からない事が多い台本を使うのは、本当に素晴らしい機会でした。
英語圏の翻訳劇に対する時は、演劇の本場に対する引け目のような、どこかに正解があり、それに辿り着かなくてはならないという思いが強かった事に気付きました。
今回の戯曲では、もちろん調べて読み込むという事はいつも通り必要であっても、まだ正解は無い(無くても大丈夫)なように思え、英語圏の戯曲でも同じ気持ちで向き合って良いのでは、という発見がありました。

書いたらキリが無いほどの充実したWS。この機会を作り参加させて下さった事に、また、感染症が広がる中、対面で開催して下さった事に深く感謝いたします。
安全な空間を作り、導いて下さった竹中さん、私たちに寄り添って下さり、作者の方とも繋いで下さった仮屋さん、本当にありがとうございました。またこのような企画に参加出来る事を心から願っております。
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「パラナ・ポラー」WS 感想
牧 凌平

このような機会を得られたことに感謝したいです。
演劇WSといっても様々な形式のものがありますが、海外の現代戯曲に触れることができるという点が魅力的に感じたため今回参加募集に応募させていただきました。
実際に3日間が始まる前から戯曲をいただき、読み込む時間を経てからWSに参加できたこともありがたい時間でした。

WSを終えて、大きく2つ自分にとって考えたいテーマが残りました。1つは海外戯曲を日本で上演する面白さについて。もう1つは日本での演劇の学び方についてです。

【海外戯曲を日本で上演する面白さについて】
今回扱った戯曲はアルゼンチンのマルハ・ブスタマンテさんが執筆した「パラナ・ポラー」という作品です。アルゼンチンは南米にありますが、ヨーロッパとの関わりも深く、南米の周辺の国々(ウルグアイ、チリ)とも陸続きで、日本とは地理的にも異なる背景を持った国です。
作品は実際のアルゼンチンの土地に則して描かれていますが、パラナ河が凍ってしまった近未来の世界という設定です。2人の女性が町から逃げ出して山地の都市を目指しますが、荒廃した世界観の中に不思議な生き物が出てきたりします。
一読しただけではその世界観特有のものなのか、それとも日本人に馴染みがないだけのものなのか判断が出来ずに誤読を繰り返しながら読んだ時間も面白い時間でした。

WS初日に翻訳の仮屋さんから戯曲背景の解説があり、キーワードとして挙げてくれた言葉が「魔術的リアリズム」でした。日常の中に非日常的な現象が融合していたり、生活の中に不思議なものが息づいている表現ですが、ラテンアメリカ文学はガルシア=マルケスの「百年の孤独」を代表に、魔術的リアリズム作品が発展してきたようです。「パラナ・ポラー」の戯曲の中にもファンタジーという言葉だとしっくり来ない不思議な世界観があり、魔術的リアリズムという視点は空間を立ち上げたりシーンについて考える際のヒントになりました。

日本に住んでいて身につけた常識だけでは理解できない範疇があるというのが海外演劇の面白さだと思います。同じ現代を生きているのにそういう違いが当たり前にあって、別の立場から見た違和感が積もっていくと、わからなくて遠い世界が出来上がっていく。その違和感の塊を解きほぐしていくと急に身近な存在に感じられたりもするのがとても楽しいなと思います。

実際にグループワークをしながらディスカッションをしたりシーンを作る際には、今まで一人で読んできた作品について「こう解釈できるんじゃないか?」とか、「このシーンで重要なのはこの部分だと思う」という意見がどんどん出てきて、それを元にどう演じたらそれを面白く伝えることができるのかなど話し合ったり、時には翻訳の仮屋さんに相談して自分たちの読み込みが原文からずれていないかどうかなど、ラフに意見交換しながら創作できたことが刺激的でした。他のグループが考えた作品と自分たちの作品との違いもとても興味深く、時間が許すならもっと繰り返して色々なシーンの立ち上がりも目撃したかったと思います。

【日本での演劇の学び方について】
もう1つ、ファシリテーターの竹中さんが整えてくれたディスカッションの場を体験できたことも今回大きな財産となりました。

リモート1回、対面2回という限られた時間の中でグループワークをしながら戯曲のシーンを立ち上げるというのは簡単に出来ることではないと思います。それを一回一回のディスカッションの場が常に生きるように示してもらえたおかげで毎回活発な話し合いができました。
具体的には共有ではなく「分有」するという考え方。そしてディスカッションする際に「提案」を持つという考え方です。ワークを通してこれらの前提意識を全員が持つことができたため楽しく活発に意見交換することができました。

「分有」とは自分の意見や他人の意見を共有するのではなく、それぞれの立場から相手の意見を理解・把握することで、主張に強制力を持たせずそれぞれが関わりやすい関わり方を集団内で見つけることができる考え方だと思います。話したいことが特になければ無理して意見することはなく、聞いて何か思いついたら話したり、次の日に持ち越したり。強制されない感覚があると初対面の集団の中でも動きやすい気持ちを持つことができ、安全な場所があることの重要性を実感しました。また、「提案」を持つことによって、ディスカッションのときに仮に意見を否定されたとしてもそれは自分自身とは切り離されるもので、あくまでも否定されているのは「提案」なんだという精神的な安全性を持つことができました。

今回は海外戯曲を翻訳の視点から深めていく企画かと思いますが、参加者としては演劇教育という視点でも大きな価値がありました。それは上記にもあげているように、安全な場で自由に試行錯誤することは集団で創作する上ではとても重要な要素だと思うからです。

「提案」を持ち、「議論」して作品を立ち上げる。そして意見交換をしてまた持ち帰って「提案」を持つ。このようなサイクルは稽古場という演劇の捜索現場において(自然にやれている人たちもいるとは思いますが)日常的に行われている文化ではありません。竹中さんがWS中におっしゃっていた言葉で印象に残っているのは、「提案」(そしてプレゼンテーション)の力を鍛えるというものです。演劇教育というと少なくとも自分は誰かが誰かに教えるという構図をまだ考えてしまうので、自己発信で提案を出し合う中でその精度を上げていくという枠組みがとても新鮮でした。

今回は貴重な「パラナ・ポラー」という戯曲を通して、作品内容だけでなく、演劇との関わり方についても日本ではなかなか出会えない場を用意していただきとても面白かったです。語り尽くせていない部分も大いにあると思いますが、自分の中に残っているものを大切にして、引き続き考えたり、気になることを試していきたいと思っています。参加させていただきありがとうございました。
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金成均

今回のワークショップは自分にとって初めての経験も多く、とても楽しかったです。今まで何度かワークショップには参加したことがありますが、これ程自分から参加しているという気持ちにさせられたのは初めてでした。今まで与えられたワークをやるという事に慣れていて、考える事、注力する事が限定されていたなと感じました。今回戯曲を立ちあげるまであえて迂回するような形をとる事で役者以外の視点で、かつ芝居をやるとはどーいう事なのか改めて考えながらワークできました。特に今回対話的なやり方で芝居を作るという事が本当に刺激的でそーいうやり方に如何に慣れてないかという事を思い知らされました。自分は6年も芝居の現場から離れていたのに未だに芝居の事になると、オレが、オレが、オレの芝居がという気持ちが湧いてくるのに驚きと呆れとしょうがねーなという気持ちが、でも対話的に作るというルールが少し違う感じをくれた気がします。対話的に意識して作った芝居は開放的な楽しさがありました。開かれて行く様な。ただ最後にグループごとのフィードバックの時もっと実りのあるフィードバックが出来ればなと思いました。芝居の現場にはダメ出しという言葉がありますがホントにクソみたいな言葉だなと思ってます。学校教育からずっと減点法で評価する、されるに慣れ切ってそれ以外の認知の仕方をあまり知らないのか自然とあそこが良くないとか、そーいう思考になってしまいます。これからもこーいうワークショップ続けていきたいです。そして広がってほしいし、そうやって立ち上がった芝居が観たいです。
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黒木龍世

改めまして、この度は素敵な機会を頂き、誠にありがとうございます。
オンラインでの学習、共有を踏まえた、2日間の対面でのワークはとても実りある、貴重な時間となりました。

ファシリテーターである竹中さんが広げて下さった創作の場は、開かれていて、互いを尊重し、安心して物語に集中する事ができました。
現役の俳優であり、俳優教育者でもある竹中さんだからこそ、参加者の気落ちを汲んでくださり、素敵な時間となりました。

翻訳者である仮屋さんが帯同して下さったおかげで、日本から最も遠い国の1つである、アルゼンチンの戯曲に対峙する恐怖や難解さは解かれていきました。
普段、翻訳家の方と俳優が対峙する機会は稀であり、全日程ご一緒できたことが幸せな事だと実感しております。

原作者である、マルハさんとのオンラインミーティングの機会も、とても興奮いたしました。
今、この瞬間、どれだけ遠い距離であっても、それほどの差もなくコミュニケーションでき、実際の制作の秘話や狙い・考えをお伺いできたことは、3日目に行った戯曲を立ち上げる作業に生気を生み出しました。

何より、今回の機会をご用意してくださり、また参加者が創作に集中できるように環境を整えて下さった事務局の皆様のおかげでございます。
不安が常に隣にある中、会場の徹底した消毒や、設営や撤収などして下さったことで、私含めた参加者全員、不安なく楽しんで創作できました。
事務局の皆様のあのような学びある場はございませんでした。
誠にありがとうございます。

今回、皆様から頂いたものはたくさんあります。
学びや姿勢・技術、課題など、様々な刺激がございました。
3日間で、かつ対面では2日間であったのにも関わらず、数週間一緒に創作をしたような感覚がありました。
これが、1ヶ月弱のような中長期のワークであったら、どのような成果を得られるのだろうかと、考えるたびにワクワク致します。

今回、頂いたものを継続や発展していくためには、継続したワークが必要だと感じました。
今回の参加者の皆様で継続した学びの場を作れたりなどしたら、とても幸せです。

海外戯曲という、国が違うだけ、ということに、確実に壁があることが改めて知らされたと同時に、扱っている感情は普遍的であることも分かりました。
様々な国や民族、宗教、教育がある中、島国である日本に生まれた自分がどのようにして、理解していくか、生き方を問われているようにも感じます。
オンライン、また動画での表現が広がる中、観客と対峙する演劇の力をより考えていきたく思います。

この度は、誠にありがとうございました。
またお会いできますように、日々精進いたします。

この状況が一日でも早く終息へ向かいますことと、皆様のご健康をお祈り申し上げます。

 

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