2026年9月22日、国際演劇協会(ITI)本部主催によるアジア太平洋地域会議が、ZOOMにて開催され、中国、バングラデシュ、フィリピン、インド、ベトナム、日本、モンゴル、ネパール、韓国の各センターが参加しました。 当会議は、12月18日の第38回ITI総会に向けたプレミーティングであり、各センターの現在の活動状況や課題を共有するとともに、総会に向けて共通の認識を形成することが目的です。また、新しい総会のあり方も本部から伝えられました。 各国センターが展開する多様な活動 各センターの現状報告梗概は次の通りです。中国からは、上海や北京で開催される演劇祭の紹介に加え、ジョージアとの人形劇制作や、京劇と現代演劇の交流など、積極的な国際共同制作の取り組みが報告されました。バングラデシュは、翻訳戯曲も多数上演されていることや、政府助成を受けながら演劇祭を開催していること、さらに異文化との協働を進めていきたいとの意向を示しました。フィリピンからは、海外在住のフィリピン人アーティストへの支援、ショーケースほか、病気や経済格差、社会的な分断、SDGsなど現代社会が抱える問題に演劇を通して光を当てる活動が紹介されました。また、デジタル技術を活用したオンラインシアターや放送メディアの可能性にも言及があり、演劇をより多くの人々に届けるために、ITIそのものが国際的なプラットフォームとして機能することへの期待が伝えられました。インドからも、国際演劇祭や若手演劇人のための事業、演劇活動による孤児支援、哲学・科学とアーティストをつなぐ活動、演劇教育など多様な取り組みが紹介されました。 浮かび上がってくるのは、各センターの活動内容の多様さだけでなく、ITIセンターの運営をめぐる共通の課題です。モンゴルではメンバーが別の仕事を持ちながらパートタイムで活動しており、ネパールも専任スタッフや独立したオフィスを持つ状況にはないといいます。韓国からはセンターの改革やリーダーシップの交代についての話もありました。 日本センターの現状について報告 日本センターの報告は三輪えり花が行いました。当会議はあくまでも現状報告ということでしたので、お伝えした概要は以下の通りです。現在の主要事業として『国際演劇年鑑』の日本語版・英語版の刊行、および、翻訳者を育成する 「ワールド・シアター・ラボ 次代の翻訳者育成セミナー」について報告しました。日本センターの現状として、財政的・人的資源の確保が難しく、新たな活動を展開するのが困難になっていること、若い世代をいかにセンターの活動に引き込んでいくかが課題であることを伝えました。日本国内には優れた演劇活動が数多く存在するものの、それらが必ずしも日本センターの活動と結びついていない現状を話し、他センターに対して、若い世代の参加や活動資金の確保について経験や知恵を共有してほしいと呼びかけました。 交流から協働へ――新たな世界大会のかたち 最後にITI本部より、今後の世界大会を、従来の単なる活動報告の場から、各センター間の交流と協働を生み出すネットワークの触媒 としての役割へと変えていく新しいモデルが示されました。12月18日の総会に先駆けて行われる「世界大会前交流プログラム(12月15日から17日の三日間)」では、「舞台芸術と社会 Performing Arts & Society」「協働によるつながり Connecting through Collaboration」「未来を想像すること Imagining the Future」という三つのテーマを据え、参加者同士の対話を促し、それを新たなパートナーシップや共同事業につなげる可能性を探っていきます。世界大会を一過性のイベントとして終わらせず、国際的なネットワークを継続させるきっかけとする意欲が伝わってきました。 出会いが育む、これからのネットワーク 今回の会合に参加し、昨年11月のアジア太平洋会議(ベトナム開催)で知り合った人々と再び顔を合わせ、こうして徐々に信頼が深まっていくのだと、出会うことの意義を実感しました。 たしかに国(センター)によって政府機関との関係や助成制度には大きな違いがあります。演劇を単なる商業的な消費活動ではなく、社会と人をつなぐ文化活動として発展させていくためには、公的な支援も重要です。政府との関係を積極的に築いているベトナムの姿勢からも、日本センターが今後学ぶべき点は多いと感じました。現在の事業を維持しつつ、若い世代を取り込み、国内の優れた演劇活動とITIとの接点を増やしながら、国際的なネットワークを積極的に活用していくことも必要です。12月世界大会前交流プログラムの際には、日本センターも日本の演劇活動の海外への発信など意欲的に取り組んでいきたい姿勢を伝えることができればと思います。ITI本部が、「報告するためのセンター」から、「つながり、新しい活動を生み出すセンター」へ生まれ変わろうとしている中、 日本センターも、その視点での活動展開を考えていきたいところです。 三輪えり花(ITI日本センター 理事) ***** プロフィール 演出家・俳優・翻訳家。慶応義塾大学卒、ロンドン大学演劇科修士。国費で英国王立演劇学校へ長期研修後、東京藝術大学や新国立劇場で講師歴任。シェイクスピアから現代劇まで様々なジャンルで演出・出演を行う。 著書:『英国の演技術』『シェイクスピアの演技術』(玉川大学出版部) 翻訳書:『インプロ:自由な行動表現』(キース・ジョンストン著)、『クラシカル・アクティング』(マルコルム・モリソン著)(而立書房)